広島大学 大学院先端物質科学研究科 半導体集積科学専攻

コラム   

第17回 「MEMSについて」
 
三宅 亮 (MIYAKE, Ryo
 
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 年の瀬なので、何か、それにちなんだ気の利いたことを書こうかといろいろと考えたが、浅学故、恥ずかしい文章になるだろうと考え、結局、自分の研究分野(MEMS)について、かねがね考えていることを書くことにした。MEMSとはMicro Electro Mechanical Systemsの頭文字を取って出来た造語であり、語の印象から何か確たるモノのように思われるかもしれないが、どちらかと言えばモノを作るための技術手段・体系といったほうが近い。応用範囲は、自動車用センサから、携帯電話用マイクロフォン、あるいは遺伝子検査用のチップ、化学生産用プラントまで、それこそありとあらゆる産業に広がっている。ここ10年でナノテクノロジーやバイオ・医療分野との融合を支えるキー技術として着目され、世界中で、多くの研究者が参入、多額のファンドが投入され、相互に競い合っている。およそ25年間、この分野に関係してきた者として、分野自体が消滅するかもしれない不安を抱えて研究を続けていた時代からすると、実に感慨深いものがある。しかしながら、一方で、現在の爆発的な拡がりを見て、幾ばくかの危惧も感じている。上記のようにMEMSは応用分野が広がっているため、MEMS研究の質を正確に評価する、特に応用に関する妥当性について判断することが難しくなっているのではないかという不安である。最近、実用局面になると、特に融合分野では、相対する分野の研究者・ユーザーから厳しい注文を浴びるという事例が増えているという話を聞く。

 研究には、真理を探究する方向と、新しいモノを創造する方向がある。MEMSはと言えば後者であり、どのように言い訳しようと、最終の目標は、「実用化による社会への還元」であろう。したがってそこに至らなかった場合は、厳しい見方をすれば未達である。もちろん未達であってもその過程は極めて重要な成果であり、失敗の情報や経験が次の発展に活かされていけば良い。いずれにしても「実用化による社会への還元」について、真摯に対峙することに異論はないであろう。では、応用の妥当性をどのように判断すべきであるか。私なりの考えを述べてみたい。当然ユーザーの声をしっかりと聴くということが一番大切である(しかし最近はユーザーも多層化しており、ターゲットユーザーを見つけること自体難しくなりつつあるが)。それに加えて、社会に還元するためには、その過程において(例えば設計・生産・営業・販売など)、実に多くの人を動かす必要がある。その技術・モノがそれらの人を動かす力を持っているかどうか。例えば、背後に養う家族を持つ従事者が、今まで給与を得てきた旧来の確立された方法に代えて、その新しい技術・モノを選択してくれるほどの光るものが宿っているか、すなわち社会貢献の度合い、変更・代替に伴う投資を上回る魅力(利益)、失敗リスクの回避策など、あらゆることのバランスを考える必要がある。研究開発にはお金がかかる。しかも公的機関では税を原資に成される場合が多い。MEMS研究者は(私を含め)、新規性云々もさることながら、この実用化について、もっともっと真剣に考える時期に来ているように思う。

 大晦日は、除夜の鐘に耳を傾け、腕組みをして反省また反省。推進中のMEMS研究の今後の取り組み方について、じっくりと考える機会としたい。

(2010/12/20)


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