広島大学 大学院先端物質科学研究科 半導体集積科学専攻

コラム   

第22回 「“内向世代”
  
張 書秀 (ZHANG, Shuxiu
 
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 若者が"内向世代"になったと最近話題になっており、なぜ今の若者が"内向世代"と言われるかといえば、海外に出たがらない若者が増加しているからだ。米国の国際教育研究所がまとめた2008~2009年の米国への留学者数は、日本が前年比14%減の2万9264人だったのに対し、中国は21%増の9万8510人、韓国は9%増の7万5065人だったようだ。このような数字だけで現在の若者は"内向世代"になったと断言していいのか私は疑問に思う。その理由として下記の3点を取り上げる。その一、日本の人口構成では若者の数は減少しているため、おのずと留学者数も減少するはずということ。その二、韓国を別にして中国と比べる場合、日本の米国への留学者数は総人口比で中国の3倍程度にあり、依然高い比率にあること。その三、留学先としては米国のみならず、EUやアジアなど、選択肢が多様化しており、特にアジアへの留学者が急増していること。例として、中国への日本人留学生数は、1994年5,055名(日本人留学生全体の9.2%)から2006年18,363名(同24%)と増加している。現在、日本から中国への留学生総数は約13万人で、渡米する人より多いかもしれない。よって、若者が海外に出たがらないわけではなく、多岐にわたって好きなところを選択していると言える。

 また、あるネットアンケートによると、海外に行く必要はないと答えた人が19%であることに対し、お金がないことを理由とした人が59%にのぼり、海外に行く意欲がない人が多数であるとは言えない。日本より高い(生活費などの)費用を必要とする国は少ないはずなのに、なぜお金がないという理由を挙げる人がこんなに多いのだろうか。先入観を持ちチャレンジしたくない人はいるだろうが、根本には日本社会において海外に行くインセンティブまたは必要性が少なくなったということではないだろうか。先進国である日本は他国に学ぶべきことが少なくなり、生活が豊かになった今は昔に比べて更に豊かになろうとする気力が薄れてくるのも当然である。このような個人的な気持ちのみならず、国全体の体制もそれを助長し、奨励やサポート体制が弱いのではないかと考えられる。一つの例として挙げると、会社の採用は日本の大学より新卒の方がメインで、それ以外は特別扱いされるケースが多い。待遇面や昇進も年功序列またはそれに似たような考えをもつ会社はまだ多い。

 現在の若者はいままでにない環境で育てられ、いろいろな特徴があるのではと考えられる。その環境というのは、情報が必要となった時、他の人に聞かずともインターネットで調べれば分かることや、相手と会わなくても携帯で長時間でも会話できることなど、20年前では想像もできなかったことだ。このような環境により内向的傾向は強まるかもしれないが、"内向世代"とは考えられない。それでは、なぜいまマスコミが"内向世代"を取り上げるか、その理由の一つとしては若者のコミュニケーション能力が落ちたということかもしれない。それが正しければ、教育にコミュニケーションを重視した指導方法や新社会人に対するコミュニケーションを鍛えるような仕組みが欠かせないだろう。従って、マスコミが取り上げたように海外に出たがらない若者が増加し"内向世代"になったことでなく、むしろ海外に向かう若者が増えている。特に企業のグローバル化に伴い海外へのチャンスが増えていることも事実であり、これから若者の海外出向の確率も更に上がるだろう。よって、現在日本の仕組みや流行りに縛らず、留学に躊躇しているまたは海外に興味を持つ若者は一度チャレンジしてみてはどうか。海外の経験を通して自分の視野が広げられるなら、自分にとっても日本社会にとってもよいことだと思う。

(2011/03/15) 


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