広島大学 大学院先端物質科学研究科 半導体集積科学専攻

第109回 「破壊王の修理」
 
花房 宏明
助教
量子半導体工学研究室


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 今年も例年通り年末年始は実家に帰省した。妻の実家では子供の為に野菜を切ったりフライパンで炒めたりする「おままごとセット」を用意していてくれたが、それらはなんと、妻が実際に遊んでいたモノだった。おおよそ30年経っている。親子で同じおもちゃを使って遊ぶ。これには非常に驚いた。
 おままごとセットには鍋を置くと渦巻きが緩んでガタガタ揺れるガスコンロや、仕込んであるバネによって食材が飛び跳ねるフライパンなどがあり、子供心をくすぐる様々な仕掛けがある。しかし、30年の眠りは深いのか、うまく動作しない。そこで“破壊王”の登場である。ネジを外し、ばねをビローンと伸ばして張り直し、爪が固まってしまいスイッチが押せない部分を直し、元に戻す。OK、修理完了。パコンっと食材が踊るように跳ねる。肝心の子供達はあまり興味を持ってくれなかったが・・・。

  そもそも破壊王の誕生は遡って小学生の頃だと思う。家にあったCDデッキのトレーが出てこなくなり、何のきっかけか分からないが筐体を開けて中をのぞき込んだ。中に収まっているトレーの下部に切れたゴムが落ちていて、ゴムがはまりそうな滑車がトレー側とモータ側の2か所にあった。この仕組みでモータの回転をトレー側に伝達し、開閉しているのだと直感的に思い、ごく普通の茶色の輪ゴムをはめてみた。するとトレーはガタガタ言い出したのに、動きがぎこちない。悩んだ末に、短めのゴムを使って張りがかかるようにしたらウィーンとすんなり出てくるようになった。さらには、筐体を開けたままCDの出し入れや音楽再生をしてみると色々と発見があった。CDをセットするポジションにトレーがスライドすると、トレーについているポッチがスイッチを押して自動的に停止する仕組みになっていたり、音楽再生の時はCDがトレーから浮き上がって回転していたり、さらにはトレーの穴が開いている溝の部分は再生時に下から読み取りのレンズが入るようになっていたり、成程!と思った覚えがある。この修理をきっかけに何でも分解してみる“破壊王”が誕生した。
 それ以来、おもちゃや電気製品、さらにはエンジンをはじめとした種々の機械製品などの分解・組立て、または、修理をしてきた。故障部分を見つけて交換部品を買って直したり、調整したり、ジャンク屋に行って同じ製品の部品を取り出して交換したり、部品を金属から削りだしたり。実家では最近修理した40年前から我が家で活躍しているナショナル製AMラジオが未だ現役で働いている。
 結果的にはモノの仕組みを実際に触って色々知ることが出来たよい経験だったと思う。こういった先人の知恵を実際に手に取って分解して知り、研究や新しい実験機器の作製、効率の良い仕組みなどを色々勉強し、今日の研究に役立っている。

  最近、学生には研究の推進と同時に、装置がどうして動いているのか、どうやって制御しているのかをしっかり知ること、“仕組みを知って使いこなす”ことをしてもらうのも重要だと再認識した。漠然とこの手順でしてください。と教えられただけだと何の為に何をしているのか分からない。この為にすると教えても実際のモノを見ることができない(箱の中とか)から結局何が起きているか想像がつかない。仕組みがわかっていないから非常に簡単なことなのに、不具合をどうやって直せばいいのかわからない。

  “仕組みを知って使いこなし”は、メカニカルなモノに限らず、C言語でも簡単な例がある。1+2+3+・・・の計算をベタにa=1+2+3+4+・・・と記述するのと、for文を使ってループを回すのと、サブルーチンでループするのとでは最後の計算結果は同じだが、終了時間が全く異なる。これは値を読みに行っているとか、サブルーチンに飛ぶとか、ステップ数が異なるために起きる。こうした色々な差は、レジスタに収まっている命令と、クロックに従ってステップが進んでいくことを頭の中に思い浮かべると容易に想像がつく。(この事例に類することで、ある装置をパソコンから制御しようとした時に、設計上限の速度が出せない事があった。)

 電気系畑から旅立つ人にはこうした総合的なソフトウェアからハードウェアまでの一貫した使いこなしを身につけ、社会の適所で活躍して欲しい。

 

(2015/01/07)


 

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