広島大学 大学院先端物質科学研究科 半導体集積科学専攻

コラム   

第135回 「最高の研究環境」
 

岩坂 正和

教授 

ナノデバイス・バイオ融合科学研究所

 

「広島大に移りました」とご挨拶すると、広島大(先端研)から他大学に移られた先生からは「あそこは研究し易い。研究設備から人材からすべてがそろっている」と激励頂き、広大出身の新聞記者の方からは「え!研究者とは、研究さえできれば生活する場所にはこだわらないのですか!」と驚かれた。
   なるほど、移って2年たってみると、学内の設備および学生さんの素養など、研究教育に必要な条件は完璧だ。だが、学内だけではない。キャンパスの外に広がる広島の大自然も懐の深い研究の場所を提供してくれていることを、最近実感している。
 魚がつくる光学結晶の研究は、アクアトリウムの中から瀬戸内海へ飛び出し、呉港から広大の実験船で深海魚から光学結晶を得て新しい光デバイスに役立てる方向へ進んでいる。また、瀬戸内海のある漁協さんからヒラメやイカを提供して頂き、リフレクチンという特異な光特性をもつタンパク質の研究も始まった。関東にいたままでは出会えなかった研究材料が続々だ。


 キャンパス周辺の野山も宝庫だ。以前からお知り合いのカエル研究の大家の先生と、カエルの皮膚から得た光学結晶の磁場効果研究を進めている。この4~6月はカエル採集の訓練期間として過ぎた。ついでに休日に野山を通ると、かなりの頻度でシカに出会う。
 関東の大学にいた頃から、インドの光物理の教授とホタルの発光の共同研究を行っており、最近になって「インドのホタルを送るから、その発光器の光学結晶を解析してくれ」と連絡があった。この付近のホタルの生息状況を比較のため調査しようと思い、夜、山の中へ出かけた。
イノシシに出会うのは、このときが初めてだった。車のヘッドライトの前に数匹のこどもイノシシ(とてもカワイイ、ウリボウ)が突然現れた。うち一匹が、どうしてもライトの照明から抜けてくれない。車の前をマラソン選手のように走ろうとする。そのとき、数十匹と思われるこどもイノシシの歓声が、周囲の暗闇に沸き上がった。「ピーピーピーピー、、」
   近年、ヒトと野生動物の遭遇トラブルが非常に増えている。その生息調査はバイオテレメトリーなどの電波計測での動物の位置把握である。しかし、イノシシのように爆発的にこどもが増える場合、位置追跡は困難だろう。ドラスティックな方法として、遺伝子といっしょに複製するRF無線チップを生殖細胞内に導入できないだろうか。動物倫理およびヒトに悪用されないこと、およびその遺伝子をリセットする技術(ワクチンのようなもの)を、あらかじめ準備しておかないといけない。


(2016/06/30)

PAGE TOP
広島大学RNBSもみじHiSIM Research Center