広島大学 大学院先端物質科学研究科 半導体集積科学専攻

コラム   

第145回 「その努力を今日から始める。」

  

藤島 実

 教授

先端集積システム工学研究室

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  宋の儒学者、胡寅(こいん)が、『読史管見』の中で述べた「人事を尽くして天命を待つ(盡人事而待天命)」は有名な故事です。自分の力でできる限りのことをしたら、結果は運命に任せなさいということです。運命とは、理系の言葉に置き換えると確率と読み替えてもいいかもしれません。そうすると、やることをやっておけば、結果は確率で決まるということになります。もちろん、なにもしなくても結果が確率で決まることに変わりはありません。1 年前(2016 年 ) の卒業式で、私は「理系の考える神様」というお話をしました。神様とは、理系の視点から見ると、努力で決まる確率ではないか。だから、成功、失敗といった結果にこだわりすぎずに努力することが大事だというのが話の主旨です。確率に委ねる(天命を待つ)としても、努力しなくてもいいということにはもちろんなりません。

 人事を尽くして天命を待つ、という因果関係を分解して考えてみましょう。ある瞬間の努力は時間の関数で、「人事」は過去の努力の積分です。成功する確率は 0 以上 1 以下であり、「人事」に対して単調増加かつ成長曲線のような関数となるでしょう。成長曲線は,最初の増加は少しずつですが、中ほどで増加量が最大になり,その後しだいに減少し S 字型(シグモイド型)となるものです。「人事」は努力の積分、確率は「人事」に対して S 字曲線、この大雑把な捉え方が重要です。

 成長曲線は、最初はゆっくり立ち上がりますが、加速度を得て急速に増加します。結果が評価されるまでに残された時間が限られているからと言ってあきらめるのはもったいないのです。もちろん、日々のコツコツした心がけは努力の積分である「人事」には重要です。しかし、いくらこれまでサボっていたとしても、一生懸命努力し始めれば、結果は確実に変わります。思い立ったが吉日です。これまでのことは水に流し、今から新しい気持ちで頑張るべきです。これまで努力を積み重ねた人と同じ結果を期待することは現実には難しいかもしれません。しかし、どのようにすればよりよい未来につながるのかを考えると、いつの時点であっても遅きに失することなど決してないのです。

 過去の努力の積み重ねは埋没費用(サンクコスト)に、これからの努力の仕方は機会費用(オポチュニティコスト)に相当するのでしょう。大事なことは、埋没費用にとらわれず、機会費用を最適化することです。過去の努力は無駄にはなりませんが、過去を後悔する時間があれば、これからを考える時間に充てたいと感じています。

       
胡寅
http://www.zgls5000.net/lsrw/huyin.html より転載

(2017/5/24)

 

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