広島大学 大学院先端物質科学研究科 半導体集積科学専攻

コラム   

 

第170回 曜変天目茶碗と半導体プロセス、あるいは教養と研究
  

香原 翔太

 

先端集積システム工学研究室

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 曜変天目茶碗という陶器があります。

 世界に僅か3点しか存在せず、そのすべてが日本の国宝に指定されているという非常に希少かつ美しい茶碗なのですが、その最大の特徴は色にあります。

 曜変天目茶碗は全体としては深い瑠璃色をしているのですが、光の当たり方、見る角度によってその色彩を変化させます。

 これは顔料によるものではなく、光の干渉によって発生する色すなわち構造色であるということが判明しています。しかし、その製造方法は今もって謎とされており、再現に向けた研究が続けられています。

 現時点で有力とされている説の一つが陶芸家の九代目長江惣吉氏が発表した、焼成の過程で蛍石を投入することでフッ素ガスを発生させ陶器表面のガラス膜を侵食するという方法です。

 

 さて、当研究科に在籍している方ならここでピンとくるはずです。

 この手法、半導体プロセスにおけるドライエッチングにそっくりではないでしょうか。

 薄膜による光の干渉で表面に虹彩が生じるのも半導体チップと同様です。私がこの話を知ったのは深夜のTV番組でしたが、これに気付いたときには中々に興奮しました。

 我々が大学・大学院と学習してきた内容は決してその分野の中でのみ有用な知識ではなく、もっと広範囲に活用して我々の世界を広げてくれるものなのだと実感した一例でした。

 

 Wikipediaの『教養』の頁には次のように記されています。
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 一般に、独立した人間が持っているべきと考えられる一定レベルの様々な分野にわたる知識や常識と、古典文学や芸術など質の高い文化に対する幅広い造詣が、品位や人格および、物事に対する理解力や創造力に結びついている状態を指す。
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 すなわち、知識はただの情報としてあるのみでは意味がなく、活用してこそ教養たるのだと。

 曜変天目茶碗の例を教養と解するかは読者に任せますが、ある物事に対する理解に別の知識を活用するという構造は研究においても全く同一だと思います。

 これから研究に臨む学生諸氏は決して視野狭窄にならず色々な物事を見て、そしてこれまでに勉強した知識とリンクするところはないか考えてみてください。

 その積み重ねが研究を円滑に進める鍵のひとつであると、私は考えます。

 

参考
『曜変天目茶碗』https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%9B%9C%E5%A4%89%E5%A4%A9%E7%9B%AE%E8%8C%B6%E7%A2%97

 

 

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